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2008/10/17

カザフスタンで民俗音楽を聴く

9月23日から10月1日まで、カザフスタンの民族音楽を聴きに、アルマティおよび新首都のアスタナに行ってきました。アルマティは天山山脈の北側の麓(写真1)にある、旧首都です。天山山脈の南側はキルギスタンで、このあたりは昔のシルクロードです。カザフスタンの民族音楽は、遊牧民の音楽です。

写真1 天山山脈の北側の麓


24日の晩は、クラシックコンサートをアルマティオペラハウスで聴きました。モロデジュニ交響楽団によるコンサートで、昔のソ連邦の国々から選りすぐりの若い音楽家たちを集めた楽団です。曲目はベートーベンのエグモント序曲、ラフマニノフのピアノコンチェルトNo.2、ヴェルディ、ロッシーニ、ヨハンシュトラウスなどで、表現豊かに音楽を楽しんでいるといった演奏で、非常にレベルが高かったです。聴衆も、若い人が多くクラシック音楽が生活に溶け込んでいる感じがしました。ここはオペラハウスなので、音響はどうだろうと気にしていたのですが、舞台の幕類は紗幕(写真3)のような薄いもので、ほとんど吸音しないようなものでした。舞台の壁はコンクリート打ち放しのため、ホール全体はかなり反射性となっていると思いました。ベルベットの幕はこのコンサートのためにはずしたのだと思われます。

写真3 舞台の幕


ちなみに、このオペラハウスは、第二次世界大戦のときに、日本人の捕虜が建設したものだそうです。以前に、大きな地震がアルマティを襲ったとき、このオペラハウスだけは壊れなかったそうで、それにより日本人に対する評価は今も高いとのこと。

アルマティオペラハウス
左:友人/右:テン氏(作曲家)


翌25日はアスタナに行き、26日の夜はアスタナの民俗音楽用のホールである大統領文化センターに行ってみましたら、たまたま詩人の講演会があり、その詩に曲をつけて、2弦のマンドリンのような民族楽器ドンブラや、コブスという2弦の弓で弾く楽器の演奏されました。詩の朗読も演奏も電気で拡声をしておりましたが、スピーカが両端にあり、音が片方のスピーカからしか聞こえず、少々騒がしく臨場感に欠けるものでした。(写真4)

写真4 大統領文化センターでの演奏


翌27日には、そのホールで音響測定をお願いしたところ、OKしていただき、その後、ドンブラやコブスや7弦の琴ゼティゲン、3弦のセルテルなどによる演奏を10名ほどの演奏家により聞かせていただきました(写真5)。ドンブラの演奏者はヴァイセノル・アルセン(写真6)という人で、有名な演奏者だそうです。

写真5


写真6 ドンブラ奏者 ヴァイセノル・アルセン氏


コブス


ドンブラのアンサンブル


28日は再びアルマティに戻り、29日には、コンセルバトワール(音楽大学)のホールにて音響調査を行いました。そして学生によるドンブラとコブスおよびバイオリン(バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタNo.2)の音楽を聴き、また民俗音楽史の研究者エレマノヴァ・サイダ・アブドラキモヴナ先生(写真7)お会いしてお話させていただきました。このホールは残響時間が3秒近くありましたが、先生は、民族楽器にはこのようなホールは響きすぎ、また大きすぎてふさわしくないとおっしゃっていました。民族楽器は、そのものが響きを持っているため、羊の毛でできた、遊牧民の家(ユルタ)の中で演奏するのが最も好ましいとおっしゃっていました。それは、最近の芝居小屋の研究で感じていることと同じです。
ドンブラ・コブスは弦楽器の起源だそうで、BC2000前にコインのようなものに書かれているようです。また、最初の音楽家コルカタッタという人物がBC5世紀に活躍しており、ちょうどギリシャではピタゴラスの時代(ピタゴラス音律はBC550ごろ)にあたります。

写真7 エレマノヴァ・サイダ・アブドラキモヴナ先生と


30日はアルマティ最後の日で、民族楽器博物館(写真8)に行きました。

写真8 民族楽器博物館


楽器の展示を見ていて、アル・ファラビーの絵(写真9)を見つけました。

写真9 アル・ファラビーの絵


アル・ファラビー(870頃~950)は現代の音楽の発展に寄与した「音楽大全」を書いた人ですが、アルマティにはアル・ファラビー通りというのがあり気になっていました。これによると、この土地の生まれなのだそうです。そして、博物館のホールでドンブラ、コブスの演奏を聞いて帰りました。このホールの形はユルタの形(写真10)をしていますが、なんとコンクリートでできています。円形の平面で、天井はドーム上となっています。コンセルバトワールのホールも平面は円に近く、天井は円錐が途中で切られたような形です。また大統領文化ホールも8角形の平面で、天井はほぼ平ですが、いずれもユルタの形が踏襲されています。

写真10 ユルタの形のホール


展示の最後の方は、トルコ、インド、キルギスなどの周辺諸国また中国、韓国の楽器がそれぞれの国から寄贈されて、展示されていましたが、残念ながら日本のブースはありませんでした。三味線や琵琶、和太鼓などあればよかったと思いました。コブスは、弓で弾く楽器です。ビオラやチェロのような音です。中国にも二胡が弓で弾く楽器ですが、日本では流行らなかったのか、現在までほとんど弓で弾く弦楽器はありません。私はきっと和室は響かないので、弓で弾く弦楽器はいい音にならなかったためではないかと思っています。

今回、カザフスタンの民族音楽の録音をし、いくつかのホールの音響測定を行うことができました。民族音楽用のホールの設計方法についてまとめ、検討していきたいと思っています。

アスタナの風景


アスタナの風景


アスタナの夜景